まるがめ せとうち 島旅ノート

まるがめせとうち島旅ノート

© MARUGAME SETOUCHI SHIMATABI NOTE

移住者情報Migrant information

小手島
今も昔も変わらない小手島の人たちの温かさ。
子どもの成長をみんなが見守ってくれています。
今中多美さん
小手島にIターン

小手島港そばの急峻な坂道を上がった高台に小手島小学校はあります。
向かいの手島と奥のさぬき広島が折り重なる美しい景色が一望できる場所。
ここにたった1人の小学生、今中章乃さんが通っています。


小手島小学校

先輩お母さんたちの背中を見ながら漁船に乗ってきました


今中章乃さんのお母さん、多美さんは岡山県出身。小手島出身の夫との結婚を機に島に移住しました。
1980年代の当時は、丸亀市近辺から漁師のもとに嫁ぐ人も多かったそう。
先輩お母さんたちが子どもを背負い漁船に乗るのを「あんな風にするんだ」と見習いながら、多美さんも漁船に乗ってきました。
「最初に小手島に降り立ったときは、潮の香りをすごく感じたのを覚えています。」
とにかく大好きな夫と24時間一緒にいられることが嬉しくて、一生懸命だったといいます。


小手島港
小手島のタコツボ

「でも小手島の皆さんが温かく迎えてくれました。最初はあまり話せなかったけど気遣ってくださって、よいところに来たなぁと思いました。」
それから30数年、穏やかな日も、雨の日も、波が高い日も、夫と連れ添って漁に出ています。


島で当たり前のことが一番の贅沢


小手島のよいところは本物の素材の味が味わえることだと多美さん。
「ピコピコ生きた魚はスーパーではあまり見ないでしょう。」
そして島の人からは土の香りがする新鮮な野菜をもらうこともあります。娘の章乃さんも時々さばくことを手伝ってくれるそう。「命をいただく」ことを実感できる貴重な体験になっています。


小手島港の漁船

今中さん夫婦はタコ漁、イカナゴ漁、建て網漁(*1)がメイン。
新鮮だからこそ食べられる食べ方も。
「イカナゴにはオオナとコナがあるの。」
オオナは親で、コナは稚魚。
コナはチリメンジャコによく似ていて釜揚げにしてポン酢で食べます。
オオナは4月頃に丸々とした体長20cmほどのものが獲れます。小手島ではそれをしょう油につけ焼きにして巻き寿司のアナゴの代わりにします。アナゴに負けないおいしさで、春になるとお年寄りの方がよく作り「巻いたぞ、食べるか?」と持ってきてくれる郷土の味。他にも3枚におろして刺身で食べたり、干して炙って食べれば酒の肴に。色々な食べ方が根づいています。
「島で当たり前のことが一番贅沢なことかもしれない。」と多美さんは笑顔で語ってくれました。


お互いを思いやる島の人の心は今も変わりません


小手島の風景
小手島の風景

それでも「30年間で少しずつ小手島も変わってきました。」と。
多美さんがお嫁に来た頃は小手島にも子どもが30人くらいいて、とても賑やかだったそう。
今は章乃さんたった一人。
「でもお互いを思いやる島の生活スタイルは変わりません。」
小手島小学校の運動会には小手島の大人たちも参加します。
章乃さんが風邪を引いたと聞けば「こんなん食べる?」と持ってきてくれることも。
島全体で育てられていること、見守ってくれていることにとても感謝していると話してくれました。


小手島小学校の構内
小手島小学校の運動会の写真

この日の章乃さんは美術の授業中。
島で一番のお気に入りの景色を描いていました。
それは島の人が手作りしたアート「一枚の絵」の前。一筆一筆、景色を写し取るように画用紙に色を重ねていきます。
まるで島の人たちの思いに応えるように。
今も昔も変わらない小手島の人たちの温かさは、次の世代にも伝わっていくことでしょう。


今中章乃さんの美術の授業風景
今中章乃さんの美術の授業風景

(*1)建て網漁とは
魚の通り道に帯状の網を仕掛け、その網に魚が刺さったり絡まったりすることで漁獲する方法。刺網漁とも呼ばれる。


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