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小手島を歩けばあちこちでユニークなアートに出会うことができます。
漁業の浮きブイや竹、工具など小手島にあるものを組み合わせて島の人たちが手作りしたアート。
瀬戸内国際芸術祭がはじまる前から小手島のアートの島おこしははじまっていたのです。
その火付け役が岡田薫夫さんでした。
小手島のために自分の得意分野で何かしたい
岡田さんは小手島生まれ、小手島育ち。20歳からは東京日本橋で高級紳士服を扱う仕事をしていました。
45歳のときに両親の面倒を見るために小手島にUターン。当時はイカナゴ漁やタコ漁が盛んで、岡田さん以外はみな漁業を生業にしていました。
15年間の両親の介護を終えて「次は島のために自分の得意分野で何かしたい」と考えたとき、東京時代に様々なアートにふれた経験が活かされることになったのです。
はじめに取り組んだのは島の「まち歩き」企画。
まち歩きの参加者には記念に道路の法面(のりめん)の擁壁(ようへき)に絵を描いてもらいました。まち歩きに+アルファの体験を加えたことが岡田さん流。回を重ねるごとに絵も増えていき、三方を木々に囲われたその道は、まるでアート回廊のような楽しい通りになりました。
アートといってもピンとこなかった島の人たちも活動に加わるように。港のトーテムポール、竹でできた信号、たくさんのカカシ、船の待合所のタコアート。島の人たちの独創性が開花していきました。
美術大学の学生が小手島をモチーフに作品制作
岡田さんたちの活動を後押しするように2012年からは「HOTサンダルプロジェクト」が開始(主催:丸亀市と実行委員会)。
HOTとは丸亀市の島のうち「H=本島、広島」「O=小手島」「T=手島」のこと。夏休みの1ヶ月間、各島に美術大学の学生が滞在して作品制作や発表を行うアート・プロジェクトです。
作品発表会では学生が描いた小手島の風景に対して、島の人たちが質問したり意見交換したりすることが面白いと岡田さん。
「小手島に来て、今まで自分の描いてきた作品と違った作品が生まれた。色彩感覚が変わりました」という学生もいるそう。
プロジェクト終了後も岡田さんは「小手島のお父さん」として参加した学生とハガキのやり取りをしたり、時には島で採れた野菜を送ってあげたりと、交流を続けています。
HOTサンダルプロジェクトがきっかけとなり、卒業後に隣の広島に移住した人もいます。
日々の暮らしの中に、幸せや美しさを見つける楽しみ
「自分で食べる野菜は作るし、自分で食べる魚は釣ってくる」と岡田さん。
とはいいながらも45歳で戻るまで畑仕事の経験はほとんどなかったそうです。
「帰って来て荒れていた土地を開墾して、最初は苦労したなぁ」
今では段々畑で作った野菜はおいしいと喜んでもらえることがうれしいそう。
一仕事を終えた後に、瀬戸内海を眺めながらすするコーヒーが楽しみとも教えてくれました。
アートのほかにもう一つ、岡田さんが小手島で続けていること、それが「源平桃」の植樹です。
実家に数本植えられていた、紅と白の花が1本の木に咲く源平桃。桜の名所は数あるけれど桃の名所は珍しいのではと考え、島の人たちと少しずつ増やしていきました。
3月末~4月上旬に見ごろを迎え、島中が華やかな色に包まれます。
岡田さんが最後に案内してくれたのは「大倉ファーム」。
個人の農園ですが看板のある入り口までは入ることができます。畑越しに瀬戸内海と笠岡諸島が眺められることが岡田さんのお気に入り。そのとき空からすっと日が射し、海面がキラキラと輝きました。
暮らしの中にあるたくさんの美しい風景に気づかせてくれた岡田さん。どこを切り取っても美しい、まさに小手島はアートの島でした。