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本島の南側に位置する小阪漁港。その向こうには島々の間をまっすぐに延びる瀬戸大橋が見えます。
漁師の窪田忠行さんの漁場はこの小阪漁港のほど近くです。
窪田忠行さんは本島生まれ、本島育ち。建設中の瀬戸大橋を「つながっじょるな~。」とランドセルを背負い小学校に通いながら眺めてきた世代です。
父を手伝いながら20歳のときに漁師の道に進み、今は父、兄と3人で漁業を営んでいます。
季節に応じてタコ漁、タイラギ漁、キス漁を行い、漁の種類によって漁船も使い分けるそう。3艘の漁船が小阪漁港に停留していました。
明け方から漁に出て、夕方には仲間たちと集まります
瀬戸内海のタコ漁は「タコツボなわ」と呼ばれる漁法が主流。
1本の縄に100~200個のタコツボを付けて海に沈めておきます。1日おきにローラーで船に持ち上げると、タコツボをすみかにしていたタコが出てくる仕掛けです。
多いときには1日に100kgも捕れるそう。捕れたタコは岡山県下津井に出荷。下津井はタコの産地で知られていますが、昔から本島の漁師とつながりがある場所だといいます。
漁師の仕事は朝早くから。季節や潮の流れによって変わりますが、早いときには2時、3時から船を出すことも。昼頃には漁を終えて本島に戻ってきます。
夕方になると漁師仲間から「やっじょるよ~。」と声がかかり、誰彼ともなく料理を持ち寄っては仲間の家に集まり飲み会がはじまります。
ときには屋釜の海岸に集まることも。屋釜の海岸は小阪漁港のちょうど北に位置し、夏は海水浴場で人気のスポットです。海岸からは岡山県の水島工業地帯を望むことができ、小阪漁港とはまた違った風景を見せてくれます。
窪田さんは仲間たちと飲み語らいながら、夕日が沈むようすを眺めるのがお気に入りだそう。
漁師をするなら本島が一番
小阪漁港の漁師は30人ほど。少しずつ減ってはきていますが、最近19歳と21歳の若手が親や祖父に憧れて漁師を継ぎました。
「やっぱり次の世代が入ってくるとうれしいね。」と顔をほころばせる窪田さん。声をかけ合い若手をサポートしています。
窪田さんが小学生の頃は同級生が8、9人いましたが、そのうち本島に残っているのは窪田さんただ一人。
「漁師をするなら本島に残っとかな。」
子どもの頃から父の背中を見て育ち、船に乗ってきた窪田さんにとっては、漁師の道を選ぶことも本島にいることも、自然のことだったのかもしれません。
「こんなんやりたいなぁ」仲間たちとのアイデアで本島を盛り上げています
香川県が3年に1回開催する瀬戸内国際芸術祭の会場でもある本島。
昔からそこにあるかのように景色に溶け込んだ作品を各所で見ることができます。
会期が近づくにつれ窪田さんは仲間たちと「今度はこんなんやりたいなぁ」と話し合うことも。
2016年には船の出港にあわせて太鼓を演奏し、お客さんをお見送り。窪田さんの高校生の2人の娘も参加しました。
1月には漁業の神様である恵比寿神社の祭りや、5月には塩飽水軍市で魚を販売したりと、漁師ならではのイベントで本島を盛り上げています。
漁師の仕事をしていてよかったことはと尋ねると、
「他の仕事はしたことがないからなぁ。」
と日に焼けた顔で照れ笑いしながらも、自分の腕一本で勝負できるところが自分に合っていると語ってくれた窪田さん。
3人を乗せた漁船は、今日も瀬戸内海を走っていることでしょう。